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18話 ギルドの許可証と国王の召喚

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-06-27 12:00:49

 あ、従業員を雇えば良いんじゃないの? それで馴れてきたら店を任せれば良いじゃん。ミリアの紹介をしてくれる人なら安心できそうだし……。

 お店で手伝ってくれていたミリアを呼んで相談してみた。

「なぁ~ミリア、信用できるヤツに店を任せたいんだけど……良い人を紹介してくれないか?」

「そうですわね……これでは、ユウヤ様と落ち着いてお話も出来ませんし……」

 ミリアは少し考えるように言った。彼女と話をしていると、外が騒がしくなった。

「店主は、いるか!!?」

 それは、呼び声ではなく、怒鳴り声が店内に響き渡った。

 うわっ、まさか初のクレームか? 傷が治らないとか? いや、そんなはずはない……。もしかして、もう偽物が出回ってるとか? それとも期限切れの品を騙されて掴まされたって話かも……?

 そう思いながら店の方へ出てみると、そこには騎士風の男が5人と、いかにも偉そうな貴族風の男が1人。周囲の客たちは、その異様な雰囲気に圧倒されたのか、みんな距離をとって怯えたように様子をうかがっていた。

「何でしょうか?」

 俺が尋ねると、貴族風の男が腕を組み、冷たい視線を向けてきた。

「誰の許可を得て薬を売っているんだ?」

 は? 許可……何も考えてなかった……。誰に何の許可を貰えば良いんだ? 薬師ギルド? 商業ギルド? 町長? 領主? 国王?

「いえ……まだ許可は得ていません」

 俺が正直に答えると、貴族風の男はニヤリと笑った。

「では、違法だな……コイツを捕らえろ!」

 騎士たちが剣に手をかけ、俺に近づいてくる。1日目にして閉店か? しかし、その言葉を聞いて、必要としてくれていたお客さんがキレていた。

「ふざけるな! どうせ領主が金の匂いを嗅ぎつけたんだろ!」

「税金とか言い出したりして、薬の値上げされたら困ります!」

「まさが、薬の独占する気じゃねぇのか!?」

 お客さんたちが貴族風の男に詰め寄る。その間に、不機嫌な顔をしたミリアが、懐から手紙を取り出し、偉そうなヤツに突き付けた。

 また手紙か……? 色々と用意してあるなぁ……。

 そのミリアの様子に、周囲にいる護衛やメイドたちは一斉に背筋を正し、視線を逸らした。 小さく息を吸ってから、ミリアはふわりとスカートを揺らしてこちらを振り向く。ほんのりと紅潮した頬には怒気が宿り、鋭い眼差しがじわりと突き刺さってくる。

「なんだこの手紙は? この私にラブレターってやつか? 言い寄ってくる女は多いが……こうも堂々と渡してくるとは、珍しいな」

 偉そうな貴族風の男は、面倒くさそうに手紙を受け取り、ろくに目も通さずに懐へとしまい込んだ。ニヤニヤと含み笑いを浮かべているその横で、ミリアがムッとした表情を浮かべたまま、手紙の内容を冷静に読み上げた。

「これは、冒険者ギルドのギルマスから発行された“販売許可証”ですけれど? 見て分かりませんの?」

 そのひと言に、貴族風の男は驚きの表情を浮かべた。彼の知る冒険者ギルドのギルマスは、とにかく面倒を嫌うことで有名で、そんな人物がわざわざ販売許可を出すとは思いもよらなかったのだ。

「ギルマスには、冒険者に関わる武具やアイテムの販売許可を発行する権限がありますわよね? 普段は面倒がって、普段は商業ギルドに丸投げしているようですが」

 ミリアは相変わらず淡々と、けれど鋭く言葉を重ねた。

「は? 販売許可、取れてたの? ギルドの建物内だけの話かと思ってたけど……町の中でも売れるってこと? それ、すごいな」

 偉そうだった男は、悔しげな顔を浮かべながら踵を返し、店を後にした。すると、それを見ていた店内の冒険者たちから小さな歓声と拍手が巻き起こった。

 ――ちなみに、ミリアから手渡された手紙をラブレターだと勘違いしていた彼は、どこか照れくさそうに、そしてほんの少し残念そうな様子でその場を離れていった。

「よく用意してあったな」

 俺は思わずミリアに感心の声を漏らした。

「ギルドに行った時に、あとで受け取れとギルマスが言っていましたけれど……?」

 ミリアは首をかしげながら答える。

「ああ、そういえばそんなこと言ってたな……忙しくてすっかり忘れてたな」

「そうかと思いましたわ。それで、トラブルになる前にメイドに取りに行かせましたの」

 ミリアは得意げに、小さな胸を誇らしげに張った。

「助かったよ……はぁ。開店して2日目で店が潰れるところだった」

「ユウヤ様のお役に立てて、本当にうれしいですわ♪」

 ミリアの機転のおかげで、その日も無事に夕方まで販売を続けることができた。  店の皆も、クタクタになりながらも、満足そうな表情で帰路についた。

 ——国王からの召喚

 翌日……

 国王からの招待状――という名の、断ることのできない“ほぼ出頭命令”のような手紙が、兵士によって届けられた。 重々しい封蝋が押されたその手紙は、見るだけで否応なく緊張感を煽る。 ……やっぱり、儲けすぎるとこうなるよな。はぁ。 確かに、ここ最近は稼ぎすぎてた自覚はある。目をつけられるかもとは思ってたけど――まさか“国王”が出てくるとはな。

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